分かり合う時代をめざして

【書評】真の多様性とは トランスジェンダーの私が悟るまで 荒牧明楽著

トランスジェンダーの私が悟るまで
waku

トランスジェンダーは今、国際的に話題だよね

Kuru

LGBTQとかいろいろな性があると言われているよね、今回は当事者の荒牧氏の著書を紹介します

身体は女性として生まれ、自分のことは男性と自認している荒牧氏が、友人、仕事、家族、恋愛、当事者間の中で、どのように自分と信頼関係を獲得してきたのかが赤裸々に語られています。

目次

はじめに

身体は女性、心は男性として人生を送ってきたトランスジェンダーの荒牧明楽氏が、どんな世界におかれ、何に苦しみ、何がうれしかったのかを透明な描写で綴っています。

とても読みやすく、共感でき、涙が自然と出てきました。

私たちは日常生活のあらゆる場面で性別の選択を求められます。受験や就職活動の時、ホテルや病院の受付時、家や携帯電話の契約時、公的書類の申請時、さらにはトイレ、風呂、更衣室の使用時など。その大半は「男」と「女」から選ぶものです。P.4

当事者だからこそ見える世界が、分かりやすく語られています。
言われてみれば確かにそうだと思えるものから、説明してもらって初めてわかる内面のことも、ジェンダー問題にこれまで触れたことが無くても理解できるようになっています。

1章 絶望、私はだれ?

荒牧氏の場合、小学生のころから、自分は男なのに周りは女の子として見てくる違和感を感じていたそうです。(体は女性、心は男性)

高校生になって初めて、テレビドラマで性同一性障害という言葉と、それが何を意味するのかを知ることになります。

小学生に感じ始めた違和感から、自分の他にも同じ意識を持っている人がいる事が救いとなった高校生の間に、感じてきた様々なことが言葉で綴られています。

変わっていく自分の身体や埋まることのない周囲とのギャップ、自殺未遂をするほど追い込まれながら、男性として生きることを諦め女性として生きることを受け入れていく、自分という存在にもがく苦悩が描写が印象的です。

子どもの時期の自分という存在を確立しようとする意識は、意外なほど強いように思います。 私自身の子ども時代も、自己存在にどう対応すればいいのか分からず、苦悩していました。

現在の日本は、自己存在を確立しようとする意識に対応した教育がないように思います。 これからの子どもたちはジェンダーが当たり前の環境で育つのだとしたら、理解するだけで救われる気持ちがあることを、大人はもっと大切にしなければならないのかもしれません。

女の子として生きる決意をした中学三年生の夏。中一の頃から日記を書くのが習慣になっていて、当時の日記には、太マジックでこう書かれていた。「人生は100%演技だ」P.50

2章 自分らしく生きるとは

大学生活が始まり、親元を離れ、他の当事者との交流が進むにつれ、変化の対象が変わっていきます。荒牧氏の場合は、より具体的、社会的、肉体的へと移っていきました。

その中でも特に重要なのが、受け入れてもらえるのかどうかというポイント。

気持ちよい関係をつくるのなら自分を偽るしかない。素性を知っていたとしても長続きはしない。そんなジレンマの中で、どうしても抜け出せないパターンが出てきます。 それは自分は逃げているのではないかという空虚な心の隙間です。

子どもの頃よりも変化の自由度は上がるものの、どんなに変化をしてもぬぐえない足りない何かがあることに気付いていくのは、すべての人にも言えることだと思います。

この章はかなり赤裸々に描かれていて、自分をどう存在させるのかの葛藤がジンジンと伝わってきます。

自分らしく生きることがこんなにも難しいことなのかと、改めて感じる内容でした。

確かに手術をして男の戸籍を手に入れ、十分な収入とゆとりのある時間。気が合う仲間もいる。けれど、私自身はずっと埋まらない心の穴、空虚さがあることに気付いていた。
どれだけ好きなことをやっていても、好きな人といても、自然の中に身をおいても、いつも物足りなさを感じているのだ。P.142

3章 本当の自分との出会い

この章は、2016年4月に起きた熊本地震の描写から言葉が始まります。

この地震をきっかけに、人間の醜さと美しさを同時に見ることになり、これまでの人間関係から得た希望と絶望の感情と、自分に対する期待と無力感が押し寄せ爆発しそうになった時に、意識のベクトルが本質へと向かったそうです。

そこで正しい問題と出会うことに重要さに気付きます。

木に茂る無数の葉にひとつ一つ対応していては、時間がいくらあっても足りくなってしまう。すべての問題を生み出す正しい問題とは何かと。

その正しい問題とは、脳の認識のクセに観点が固定されていることでした。

この章では父親との逸話が出てきます。
学生の頃、怒りを覚えた父親の一言を今思い返せば、ゆるぎない父親が自分を最大限認めた一言だったのではないかという解析は、涙が出ました。
このような再解析を誰もが出来るようになれば、人はもっと自由になれると感じました。

今までいろんなことにチャレンジし、性別適合手術まで受けたけれど、人間としての本質、根っこは変われなかった。本当に変われるチャンスがここにあるのなら。
これが私の人生を大きく変えるきっかけとなる認識技術「nTech」との出会いである。P.159

書評

赤裸々なほどに具体性があり、荒牧氏の何がどのように変化して克服したのかが丁寧に書かれていました。内容の入り口はトランスジェンダーでしたが、語られているのは、人間とはどう生きるべきかです。
トランスジェンダーのみならず、自己存在を現わすジレンマを感じている人すべてにお勧めできる本です。

現代は多様性が主流になっていますが、どうやって秩序をつくりチームプレーを組んでいけばいいのかは、まだ多くの人が手探り状態だと思います。

この本の4章ではそのチームプレーについて、最終章では社会についてコンパクトにまとめられています。

疎通の課題から見てもとても学びの深い内容でした。他者や仕事、生き方との疎通は、自分自身とのゆるぎない疎通から始まることを示してくれています。

実は、認識技術nTechを学ぶ仲間でもあり、この本の出版準備に少しだけ関わらせていただいた間柄です。

個人的には、社会についてもう少し具体的なことが聞きたかったなと感じましたが、それは次の本に期待したいと思います。

荒牧明楽氏

@makiojisan2018

https://twitter.com/junku_shibuya/status/1505495604692062210
トランスジェンダーの私が悟るまで

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