分かり合う時代をめざして

【書評】「わかりあえない」を越える NVC

わかりあえないを越える
waku

分かり合えないを越えるって問題意識がぴったりじゃない

Kuru

なんてぴったりなタイトルなんだろうと思わず手に取ってしまいました

「わかりあえない」を越える マーシャル・B・ローゼンバーグ著
マーシャル・B・ローゼンバーグ氏が提唱し開発したNVC(Nonviolent Communication)を紹介している内容。具体的な事例と何をどうやって変化させていくのかを丁寧に伝えている本です。

目次

分かり合えないを越える=対立の根絶 ではない

対立や紛争は人生の自然で健全な一部であると認識しています。
P.25

NVCが目指している世界、それは対立や紛争の根絶ではなく、分かり合えないという対立に向き合いましょうというものです。

分かり合えないことについて、無くせるのなら無くしたい思うものですが、NVCでは、対立や紛争は個人を成長させるものだという考え方を持っています。

確かに、読み進めていくと分かり合えない対立と向き合うプロセスを知らないからこそ、対立が助長されるメカニズムがみえてきます。

他者とつながるプロセス

平和的な変化をもたらすプロセスは、自分自身のマインドセット、すなわち自分と他者をどのように見ているか、そして自分のニーズをどのように満たすのか、を見直すことから始まります。
P.30

人が分かり合えない対立でやってしまうのは、相手に対する非難です。 しかし、非難し合っていても対立が深まるばかりで、平和的な突破口はひとつも見えきません。

そこに何をどのようにすれば突破口が開かれるのかを、「自分自身が何をどう見ているのか」をまず観察していきましょうと説いています。

そのプロセスは、まず明確に観察を行うこと。そして感情とニーズを受け止めること。最後に相手にリクエストするという表現で自分の内面をまとめること、です。

人間はなぜ暴力をふるってしまうのか

暴力がまん延している原因は、私たちの本質ではなく、私たちの受けた教育にあると考えています。
P.41

NVCではその原因を教育にあると言っています。

人は暴力を振るう側にいる時にどんな信念をもっているのかというと、それは正義なのだそうです。
自分が正義なのだから、力を行使しても良いのだという思い込みの中に入ってしまうと。これは納得ですね。私自身も思い当たります。

なぜそのような思い込みを誰もが持ってしまうのか、それが支配権力者による教育だとNVCでは考えています。

義務、責務、懲罰と報酬、公衆の恥という感覚は、この支配者による教育によって植え付けられ、支配権力の扱いやすいように育てられたせいだとしています。

NVCの仕組み 何を問うのか

NVCは常に、2つの重要な問いに私たちの注意を向けさせます。
P.49

問1.自分の内面で何が息づいているか
問2.人生をより素晴らしいものにするために何が出来るか?

自分の内面で何が息づいているか

自分の内面を言語化するには二つの表現方法を得る必要があります。 それが、「感情のリテラシー」と「ニーズのリテラシー」です。

そこで重要なのは、自分の診断を交えずに表現すること。もうひとつは、他者ではなく自分の受け取り方を観察することです。

自分の診断を交えずにというのは、事実と思い込みを分けることになります。
自分の決めつけや思い込みを排除して、起きている事実、相手が話をした事実を表現することが大事だということです。

もう一つの自分の受け取り方を観察するとは、人は刺激に反応するように思うけれども、そうではなく原因があるから反応するのだ、というものです。その原因は、相手ではなく自分に原因があるということになります。

人生をより素晴らしいものにするために何が出来るか

NVCでは、「行動を促す肯定系の言葉」でリクエストすることを提案しています。

肯定系の言葉とは、思いやりの心を持ってお互いに与え合えるような質のつながりを生むことを指しています。

具体的には、「自分は相手に何をしてほしいのか」、そして、「自分の望むことを相手がするなら、その理由はどのようなものであってほしいか」になります。

この時に気を付けたいのが、リクエストが強制にならないことです。 自分自身のニーズと同じくらい、相手のニーズにも関心を持っていることを示すことで、共感ベースでのリクエストとなり、相手が進んでリクエストに応じる気持ちになります。

しかし、これが強制になると、そこから対立が始まるという、目も当てられない物語が始まってしまいます。

内側の変化を起こすにはニーズを満たすこと

私たちの行動はどんなことでも、自分のニーズを満たすための試みなのです。
P.103

NVCの変化のアプローチはニーズに対して行われます。 変化の対象が自分であれ、相手であれ同じです。人間が感情的になるのは、自分のニーズと深い関わりがあります。

誰もが、ニーズが満たされていなければ怒りやイライラになり、ニーズが満たされれば笑顔になります。

具体的には、自分の行動によって満たされなかったニーズに気付くこと。次に、その行動によって満たそうとしていたニーズに意識を向けることです。

これは自分の過ちや悩みに対しても適用されます。 つまり、その過ちや悩みの原因となっている、「自分の中で満たそうとしてたニーズとは何か」を問いかけることで、自分を理解することが出来ます。

また、イヤな対応をしてくる人に対しても、「その行動で満たそうとしている相手のニーズは何か」を意識することで、相手の言動に左右されないコミュニケーションが出来るようになります。

書評

具体的な事例がふんだんに盛り込まれていて、NVCを使うことで何がどのように変化できるのかが、とても分かりやすく書かれています。

私はNVCのことは、この本で初めて知ったのですが、1984年にはNVCの機関組織となるNVCセンターができ、いまでは世界70以上の国でトレーニングが実施されているようで驚きました。 日本初のトレーナーは2012年に誕生し、全国各地でも広がりを見せているようです。関連書籍もあるようですね。NVCジャパンコミュニティー

何よりも驚いたのは、本書にちりばめられた創意工夫です。 各ページには、整理すべきポイントが端的な言葉で記載され、各章の終わりには必ずエクササイズがあり、何をどのように実践すればいいのかが分かりやすく記載されています。さらに本末には索引はもちろん、NVCプロセスの活用方法や言語化された感情やニーズの一覧があり、実践へのハードルを限りなく低くしようとする訳者の皆さまの熱意がとても伝わってきました。ここまで作り込まれた本は見たことがありません。

残念なのは、提唱者のマーシャル・B・ローゼンバーグ氏がもう他界されているということです。ご存命であればぜひ一度お話をお伺いしたかったと思います。

内容について気になる点は、支配する人達の教育が私たちを苦しめているという構図で表現していることについては、残念だと感じました。 支配権力が私たちを支配しようとしている構図を持ち続けてしまうと、脳はその構図に基づいて世界を決めつけ、それを前提に考えを走らせてしまいます。どんなに活動しても支配権力が邪魔をしていると感じることになってしまい、活動のモチベーションの妨げになります。 そこは、NVCのプログラムの通り、「自分の満たされないニーズ」と「自分以外の世界」との構図で整理してもらいたかったなと感じました。

今後世界は、メタバースやIOT技術の発展により、リテラシースキルやコミュニケーションスキルが今まで以上に必要な時代へと突入しようとしています。 その時に、NVCのような明確なプログラムで人間力、人間関係力を底上げする勢力が必要不可欠な時代となります。 切磋琢磨してけたらと思います。

ありがとうございました。

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