
分かり合えない原因が個人ではなく脳だとしたら、どうやって自分や相手を理解するのかしら



自分や相手との疎通について解説しますね
分かり合えない原因は個人ではなく、脳の仕組みにあることを前の記事でお伝えしました。
では、分かり合う関係をつくるにはどうすればいいのでしょうか。
今回は、分かり合う関係をつくるために必要な、自分との疎通、相手との疎通についてお伝えします。
- 自分との疎通、相手との疎通
- 疎通するとは
- 相手とどんな関係を構築したいのか
自分との疎通


「分かり合えない」という課題を解決するためには、まず自分自身を深く理解すること(自己疎通)、そして相手を深く理解すること(他者疎通)が必要です。ここで言う「疎通」とは、単に「分かり合える」という状況だけでなく、その状況を「再現できる」ほど明確に理解している状態を指します。
では、「自分との疎通」とは具体的にどういうことでしょうか?
自分の認識と疎通する
再現するのは認識
自分との疎通とは、自分自身を再現するということになります。自分の何を再現するのかといえば、それは「どんな自分なのか(アイデンティティ)」と「自分の認識」です。
「認識」とは、「何をどう思ったのか」「どう感じたのか」「どう考えたのか」「私にとって〇〇とは何か」といった、自分の内面的な状態を指します。
例えば、囚われ、怒り、苦しみ、感動、驚きなどがこれにあたります。また、「私には〇〇に見えた」「私は〇〇だと理解した」という客観的な捉え方も認識であり、再現の対象となります。その時々の自分の状態を表すのが「どのような自分なのか」というアイデンティティです。
では、再現とは何でしょうか。


再現とは何か
再現とは文字通り、再度、同じ状態をつくりだすことです。 どのように再現するのかというと、その状態をつくる条件をそろえることで再現します。
何も無いところから何が集まってその状態になったのかを観察・理解することで、再現が可能になります。
例えば、「囚われ」を再現するには、以下の要素を観察・理解します。
- 全く囚われていない状態からどのような経緯で囚われに至ったのか
- 何と出会い、どのような反応をしたことで囚われたのか、その因果関係を言語化する
- 囚われた後、どのような思考や感情が湧き上がってきたのか
これら一つひとつを観察し、理解することができれば、囚われの状態を再現できます。
同様に、「分かり合えない状態」を再現するには、以下の要素を観察・理解します。
- 出会いや関係性、コミュニケーションが始まる前の状態から出発し、どこまで分かり合えていたのか、どこから分かり合えなくなったのかを明確にする
- 分かり合えない事象に対して、どのような思考や感情が湧き上がってきたのか
これらを観察・理解することができれば、分かり合えない状態を再現することができます。
認識構造に基づいて再現する
認識を再現するには、認識構造に基づいて因果関係を探ることで、自分の認識を明らかにしていきます。
認識構造には、全体の一部だけを見る仕組みがあります。「何と出会い、どのような反応をしたから囚われたのか」を明確にすることは、「自分はどんな部分を見ているのか」を明らかにすることと同じです。囚われた瞬間から「その部分だけ」を見続けていたのだと客観的に理解することで、「だからその部分の情報に関連する思考や感情が溢れてしまったのだな」と、囚われている自分とその世界を理解できるようになります。


自分のアイデンティティと疎通する
アイデンティティとは、自分を自分自身がどう思っているのか、自分をどう決めつけているのかといった、自己認識になります。
例えば、自信がない人とチャンスをつかみたい人とでは、同じ機会に遭遇しても、それに対する受け止め方が異なります。自信がない人は、チャンスをつかみたい人と比べて、躊躇したり決断に時間がかかったりするでしょう。また、自分を変化させたい人と自分を守りたい人とでは、同じ話を聞いても、それを変化のための情報として捉えるか、自分を守るための情報として捉えるかに違いが生まれます。
このように、アイデンティティは、自分の考えや行動、選択といった認識や生き方に大きな影響を与えます。アイデンティティは人生の根幹であり、考えや行動、選択はその枝葉と言えます。
このアイデンティティと疎通するということは、今この瞬間の自分と、自分の現実がどのように成り立っているのかを再現することです。アイデンティティと疎通することで、「どのような自分が、どのような世界を創っているのか」という、今の自分の全体像を理解できるようになります。
脳の外に出ること=オールゼロ化
自分をよく観察し感情や思い、囚われなどの再現(疎通)の数をこなせば、無駄な考えを止め、囚われをほどき、心を安定させることができるようになるでしょう。 しかし、脳が観ている世界を私が観ている限り、自分自身の不完全さまでほどくことはできません。
脳の中では認識構造が常に働き、いつも一部の情報だけをとって決めつけてしまいます。 この認識構造を通過して自分を見てしまうと、自分の全体を認識することができず、一部の情報だけで自分を理解し決めつけることになります。 どんなに深く自分を理解しても、その自分は切り取られた部分的な自分です。自分に対する不完全さが消えないのはこのためです。
脳が観ている世界を私が観ている状態から、私が脳を使って世界を見る状態へ、自分のポジションを移動させる必要があります。これを「脳の外に出る」「オールゼロ化」と呼んでいます。
疎通という単語で表現すれば、本来の自分との疎通、完全な自分との疎通となります。
「脳の外に出る」「オールゼロ化」の状態になるのは他ならぬ自分自身です。脳がつくりだす不完全さから脱却し、自分自身に100%の確信を持ち、微動だにしない状態を指します。
相手との疎通


前回の内容では、自分自身との疎通について、自分の認識、アイデンティティ、そして本来の自分との疎通という段階で見てきました。疎通のステージが上がるにつれて、私たちの自由度や可能性は大きく広がり、深まります。
では、相手との疎通とはどういうことでしょうか。
自分を理解するほど、人間を理解できる
自分を深く理解すればするほど、人間全体を理解することにつながります。
脳は経験に基づいた知識で物事を考えるため、自己理解の深まりは、その経験知を通して人間への理解を深めることを可能にします。逆に、自分と向き合う経験が少ない人は、他者を理解することも難しくなります。
例えば、「なぜ私は人間関係を築くのが苦手なのだろう?」という悩みの主語を「なぜ人間は関係を築くのが苦手なのだろう?」と置き換えることで、人間全体への理解が始まります。もし多くの人が同じ悩みを抱えているのであれば、それは個人の性格や特別な経験によるものではなく、共通の法則性や仕組みによって生じていると理解できます。
自分との疎通で得られた学びを、この「共通の法則性や条件」という観点に落とし込むことで、人間が悩むメカニズムが理解できるようになります。この人間共通の法則性の理解と観察の蓄積こそが、目の前の相手を理解する上での基礎となるのです。
相手の認識を自分に再現する
相手との疎通において最も重要なのは、相手が何を認識しているのかを、自分の認識に再現することです。
コミュニケーションや関係性は、一方通行では成り立ちません。お互いの協力があって初めて成立するものです。心では協力したいと願っていても、つい一方通行になってしまうのは誰もが経験することでしょう。その原因は、勝手な決めつけや思い込みにあります。決めつけている状態では一方的であり、相手の話を聞くことさえできません。その典型的な例がコミュニケーションです。
コミュニケーションは言語を通じて行われますが、相手の単語を理解しようとするだけでは不十分です。なぜなら、人は思考や感情を言語で表現しようとするからです。相手の言葉の表面的な意味を理解しても、その裏にある思考や感情を理解したことにはなりません。
相手の言葉を引き出しながら、今、相手が見ている世界や認識を自分の認識に再現できたときに初めて、相手を本当に理解したと言えるのです。
どんな関係を構築したいのか
相手にやみくもに質問していても、相手の思いや感情を引き出すのは簡単ではありません。 信頼がなければ、深い質問に答えてもらうことは難しいでしょう。
相手と継続的に疎通するには、自らがどんな関係を構築したいのかを明確にしておく必要があります。
多くの人は、一貫性を持った人を信頼できる人だと感じます。 この人の質問ならちゃんと答えようと思えるような信頼関係が必要です。
自分自身との疎通を通過した上で、どんな関係を構築したいのかを明確に設定してみましょう。
まとめ
「疎通」のプロセスは、まず自分自身の内面を深く探求し、その仕組みを理解・再現することから始まります。この自己理解が深まるほど、人間全体の普遍的な法則性が見えてきます。そして、その理解を基盤として、相手の認識や感情を自分の内側に再現することで、真の他者理解へと繋がり、より深く豊かな関係性を築くことができるのです。